京都の一角にある河原に降り立ったサガはずっと考え込んでいた。
自分はどう動くべきなのかを。 地上の愛と正義を守るアテナの聖闘士。 その中でも最上位の黄金聖闘士にして黄道十二星座の一つ、双子座を司るサガ。 かつて邪悪な意志の介入により、善と悪の二面性を持った彼は アテナに叛き聖域を混乱に陥れた過去がある。 その反動か過去に一度冥王ハーデスによって甦った時は命も誇りをも捨ててアテナに尽くした。 そして今再び生を受けサガは思う。 今度こそは自らに恥じぬ戦いをしようと。 一度目の生は自らの心の内の悪に負け、アテナに刃を向けた。 二度目の生は裏切り者の汚名を受け、盟友に拳を向けた。 ならばこの三度目の生こそはアテナの聖闘士として誇りを持って戦おうと。 サガは立ち上がる。 弱者を守り、悪を討つ。 その決意を込めて。 デイパックから参加者名簿を取り出し眺めてみる。 知っている名は三つ。 星矢、一輝、デスマスク。 この内、星矢と一輝は自分と同じ行動を取るだろう。 しかしデスマスク……彼はどうだろうか。 力を信奉する彼はこのゲームに乗ってしまうかもしれない。 だが腐ってもアテナの聖闘士――そのようなことはないと思いたいが。 「まずはデスマスクを探すか」 どちらにしろ仲間は必要だし、もし万が一のことがあるなら 彼が誰かを手にかけてしまう前に自分が諫めなければなるまい。 かつてデスマスクを配下としていた自分の責任として。 地図を確認し、京都の街の方向へと足を踏み出したその時、 背後から足音がしてサガは振り向いた。 そのこには女学生と思われる少女が驚いた顔でこちらを見つめている。 サガも予想外に接近されていたことに驚きを隠しきれない。 『この世界で力を制限されていることは感じていたが ここまで感覚が鈍るとは……いささか事態を侮っていたな 今のままではハーデスに抗するべくもないということか……』 サガはことの深刻さに戦慄する。 そして沈黙に耐えられなくなったのか少女が話しかけてきた。 「あの……私は姉崎まもりといいます。 私に戦う意志はありません。少しお話できませんか?」 彼女は震えを必死に押さえながら、しっかりとした意志を持って こちらを見つめてきている。 『現状を理解しながらも恐怖に負けず行動できる、強く気高い女性だ』 まもりの意志の強さに感嘆し、サガも警戒を解く。 「私はサガ。 こちらにも戦闘の意志はない。 話し合いにも異論はないよ」 そういって証明の為に両の掌を広げ、相手に見せる。 その時、まもりの目が細められた気がした。 「ぬ?」 常人にしては感嘆に値する速度でデイパックから奇妙な形のナイフを取り出し まもりはサガに斬りつける。 しかしサガも制限されているとはいえ、最強の聖闘士なのだ。 あっさりと彼女の攻撃を見切り、ナイフを避けて手首を掴む。 「あ!?」 僅かに力を込めるだけでまもりは声を上げ、ナイフを落とした。 「残念だ。あなたのような人がゲームに乗っているとは」 サガは勤めて平静に声を絞り出した。 このような女性まで狂気に駆り立てるこのゲームと 主催たるハーデスめらに改めて怒りが湧き上がる。 ふと気付くと彼女の手首を締める自分の指に赤い筋が生まれていた。 ナイフの刃が掠っていたのだ。 『警戒を解いていたとはいえ……何たる未熟な』 「痛っ……ああ!」 まもりの苦痛の声を聞いて慌てて力を緩める。 ハーデスへの怒りと自戒の念に我を忘れ力を入れすぎてしまったようだ。 今度は激しい自責に駆られるが、今はそれどころではないと思い直し、 冷静にまもりに理由を問う。 「何故だ? 見たところ闘争には縁のない人間と見受けるが 何故このゲームに乗ろうとした?」 まもりは悔しそうに歯を食いしばり、俯いた そして静かに話はじめる。 「私は……セナを守りたいんです。 セナは私の弟のような存在です。とても大切な……。 彼を日常に帰すのが私の望みです。 こんなゲーム、許せないけど……乗りたくないけど! でもこの首輪がある限り逃げられない……。 だったら、セナ以外の人を全員殺して私も死ぬしかないって……」 俯いた彼女の表情は見えない。 しかし地面に涙の雫がポツポツと零れた。 「そうか……だが、ぐぅ!!」 説得の言葉を紡ごうとしたサガの口が苦痛に歪む。 突然、全身が苦痛と共に脱力し、成すすべなくサガは地面に突っ伏した。 背負っていたデイパックも放り出してしまう。 「こ、これは……一体?」 力を振り絞って顔を上げると、そこには未だ涙を流すまもりがサガを見下ろしていた。 彼女はゆっくりとした動作でナイフを拾い上げ、デイパックに仕舞い込む。 「まだ喋れるなんて凄いですね。 このナイフは中期型のベンズナイフといって 鯨でも0.1mgで動けなくする毒が仕込まれているそうです。 即効性と書かれていたのに効果が遅くてとても心配でした」 「…ふ、不覚……」 意識が朦朧とし、声を出すのも億劫になってくる。 しかしこんな場所で倒れるわけにはいかない。 唇を噛み破り、血を流しながらも毒に抗おうとする。 そうしている間にもまもりは拳大の石を拾い上げ、振りかぶる。 「ごめんなさい、許されるとは思っていません…… でもセナを護るために私は殺さなくちゃいけないんです…… 本当にごめんなさい」 そういってまもりはサガの頭部目掛けて石を振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした。 振り下ろした………そして。 ………ぬとり。 血の糸を引いて赤く染まった石を、ようやくまもりは取り落とした。 肩で息をして、その場にうずくまる。 目の前には綺麗だった銀髪を紅に染めたサガの死体。 殺した。 ついに殺してしまった。 全身に震えが走り、冷や汗が噴出してくる。 まもりは寒さを堪えるように自らの肩を抱いた。 涙がポロポロとあふれ出してくる。 駄目だ。こんなんじゃ駄目だ。 まだ100人以上いるのに最初からこんなことでは先が無い。 セナ。 自分の弟も同然の少年のことを思う。 彼の名を呟くだけでまもりの心は少しずつ平静を取り戻していく。 『セナ……震えているかな。 泣いているかな……。 大丈夫だよ。私がきっと元の世界に戻してあげるからね』 その時、フッと月明かりに影が射した。 何かと思ってまもりが顔を上げるとそこには、………サガが立っていた。 「きゃぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」 ほとばしる絶叫。 まもりは尻餅をつき、そのまま後ろへと身体を引きずる。 サガは頭部を鮮血に染め、全身を時々痙攣させながらも一歩、また一歩とまもりに近づいてきた。 「死ねない……私はまだ死ねない…… アテナの聖闘士として……まだ成すべきことがあるのだ」 全身を麻痺毒に侵されているのに、頭蓋を砕かれているのに 彼の信念は自分の身体に再び黄泉の眠りにつくことを許さなかった。 だがその瞳にもはや理性の色はなく、虚ろにまもりの姿を写すだけである。 「ひぃぃっ、いや、いや……」 殺される。 まもりは後ずさりながらそう確信する。 今更ナイフで刺したところで効果があるとはとても信じられない。 素手で殴りかかるなんてことは尚更考えられない。 抵抗する術は無い。 「駄目! そんなの!」 顔を恐怖で引きつらせながら、彼女は必死で生きる術を模索する。 その時、視界にサガのデイパックが映った。 咄嗟にデイパックを拾い上げ、中身を探る。 そして間もなくホイポイカプセルを探し当て、すぐさまスイッチを押して開放した。 中から現れたのは、奇妙な装飾が施された中折れ式の銃だった。 まもりは考える前に銃口をすぐ目の前にいるサガに向けて引鉄を引いた。 ドォォオオン その銃は轟音を響かせて光を放ち、その光はサガに直撃すると同時に爆炎を生み出した。 爆風に煽られてまもりは吹っ飛ばされる。 しかし持ち前の運動神経で咄嗟に受身を取り、被害は少々の擦り傷のみで済んだ。 身を起こして前を見るとそこでサガは炎に包まれていた。 肉を焦がす臭いが漂ってくる。 サガは朱に包まれながら空を見上げた。 すがるように両手を天へと伸ばす。 「……アテ…ナ…よ……無念、です……」 その言葉を最期にサガの意志は永遠に消え去った。 炎はそれから程なくして消え、後には人の形をした炭が横たわるだけだった。 まもりはその一部始終を呆然と見つめ、しばらくしてようやく全てが終わったことを悟る。 途端に吐き気が込み上げ、まもりはその場にバシャバシャと胃液を吐瀉した。 「ぅくぁ、ハァッハァッ……」 立ち上がることも出来ず四つん這いになって河の淵まで移動し、流水で口を拭う。 そしてその場に座り込み、まもりは空を見上げた。 真円を描く月が白く輝いている。 「セナ……私頑張るからね…… きっとセナを家に帰してあげるからね……」 決意を夜の風に乗せて、まもりは立ち上がる。 重い身体を引き摺り、彼女は後戻りの出来ぬ道を踏み出した。 【京都府 河原/深夜→黎明】 【姉崎まもり@アイシールド21】 [状態]:精神的、肉体的に疲労 [装備]:魔弾銃@ダイの大冒険 空の魔弾×1 メラミ×1 ヒャダルコ×2 イオラ×2 キアリー×2 ベホイミ×2 [道具]:中期型ベンズナイフ@ハンター×ハンター 支給品一式、食料二人分 [思考]:セナ以外の全員を殺害し、最期に自害 【サガ 死亡確認】 【残り121人】
by jump-royale
| 2005-07-05 23:21
| 関西
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